パパ読ンデ

光を越え、事象の地平面で逢いましょう

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凍てつく夜

月の無い晩

オリオンは天の主役だった

まっすぐな光を投げかけて

朧な影を生み出していた

「急に走らないでよ」

妻の苛立った声が後ろから追ってくる

心も凍てつく北風の駐車場で、

夜の闇に自分の車の在りかを見失った私は

一時も早く妻を風除けの車内へ保護したかった

大病院の広大な駐車場には

夜間出入口付近に停めるスペースがなく

無明の一隅にしか空きが無かった

どうして妻は

私が車を廻してくるまで病院内で待てないのだ

外は猛烈に冷え込んでいると教えたばかりなのに

どうして私の後をついて来る

車の後部座席にあったゴミに悪態をついただけで

それから妻は口を開こうとはしなかった

大量に噴出した血

麻酔なしの掻爬

生きたまま体幹を串刺しにされる激痛とともに

妻の子宮は空っぽになった

医者の勧めを無視して

幼い息子二人が留守番する我が家で頭が一杯で

入院などする気は微塵もない

その幽鬼のように青ざめた顔は

決して寒さだけのせいではないだろうに

涙を流すのが下手な妻は

いつも憤怒が嗚咽の代わり

今日は幾らでもわめいていい

心ゆくまで叫ぶといい

群青の車内の沈黙を破り妻がつぶやく

「月が見えないね」

ため息でやっと押し出せたように

力の無い言葉に

私の母性はかき立てられた

「よく頑張った、偉かった」

一人きりで冷たい分娩台で耐えるしかなかった

小さな妻に

何もしてあげられなかった私の無力

わが身に引き受けられない焦燥

術後に空元気に笑って見せた健気さ

万感込めて妻へ投げかけたのに

どうしてか私の目が涙で曇った

「頑張ったけど、結局なんにもならなかったよ」

確かに形には何も残っていない

すべて掻き出され

医療廃棄物の白いポリ容器の中

二人で注いだ愛情は結実しなかった

でも実体の有無は問わずにおこう

一度はその息吹を感じた

ミクロの命が

私たちの成長に身を挺してくれたのだから

ヘッドライトの照らす先に目を凝らし

息子達の待つ家へ急ぐ

暖房の吹き出し口から

勢いよく風が出ている

凍てつく夜は遠ざかり

ただ妻と私が加速していた







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  1. 2011/01/31(月) 00:01:59|
  2. 人間ライフ
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