パパ読ンデ

光を越え、事象の地平面で逢いましょう

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家の影

朝から一日雨が降り、

夕方散歩に出るともう薄闇でした。

ちょっと前までこの時間帯でも汗を誘うほど日が差していたのに

今日はもうこんなに暗いのか、

と季節の移り変わりに取り残された気がしました。

傘を差している手に打ちつける雨粒の冷たさにも

秋が終わる気配を感じ、

手袋をして出てくればよかったと悔やみました。

アスファルトの上には

散乱した落ち葉が雨に浸かり、

それを踏みしだく自動車以外に動くものは見当たりませんでした。

長靴を隔てていても路面の冷気が足に伝わり、

十分も歩くと私は芯から寒さを感じました。

すると何故だか昔の心細かった記憶が

昨日のことのように蘇ってきて、

当時の感情のまま私は鬱々と歩いていました。

子供の頃、私はいわゆる鍵っ子でした。

田舎なので施錠の習慣が無く、鍵は携帯していませんでしたが、

両親が共働きをしており、

大概二人の兄は下級生の私より遅く帰宅します。

下校して鍵のかかっていない玄関を開けても

「お帰り」との声は期待できません。

でも静まり返った屋内に向けて「ただいま」は言いました。

私の存在を家中に知らせれば、

押入れの隅や柱の陰に潜んでいるかもしれない

お化けが逃げていくと思ったのです。

だから「ただいま」は思いっきり怒鳴って、

できるだけ強そうに見せ掛けていました。

殊に今日のような暗く寒い日は、

いつも生活している我が家に帰宅した筈なのに

まるで家人が見捨てた廃屋にでも来たかのようで、

そこはかとない悪意が潜んでいそうだったのです。

学習机にお気に入りの漫画が揃っている自室にいても、

時折発せられる家鳴りや

風が奏でるもがり笛に、私の小さな心は脅かされっぱなしでした。

そんな時は堪らず居間へ赴き、

音量を上げたテレビに助けを求めました。

ブラウン管の中では何の屈託も無く

ワイドショーやドラマが進行していて、

唐突に出現した世界がそれまでの雰囲気を変えてくれます。

自分もその賑やかな世界に入り込むことで

私は心の平安を取り戻していました。

炬燵から首だけ出して移りゆく画面を眺めていると、

体が温まった私はいつの間にか眠りに落ち、

帰宅した兄の乱暴な足音で転寝から目覚めるのでした。

当時はそれが当たり前の毎日でしたから

子供の生活とはこんなものだろうと思っていましたが、

傘を回り込んだ雨にズボンを濡らしながら

水たまりを踏みしめて歩いているうちに、

私は幼かった私に寄り添ってあげたくなりました。

大丈夫だよ、一人じゃないよ、と。

冷え切った体を騙し騙し、

なんとかいつもの散歩コースを巡り、

我が家の玄関に辿り着きました。

台所で夕食を調理している妻の背に「ただいま」と言うと、

妻は私に目を向け「お帰り」と言いました。

出来たばかりのナメコの味噌汁が鍋にあったので、

それをお椀に一杯もらいました。

ガンダムごっこをする息子達の横で

炬燵に足を入れながら飲み込んだ味噌汁は、

舌を焼くほど熱かったのですが、

私は息を吹いて冷ましながら

夢中でそれを体の芯に送り込みました。



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  1. 2010/10/29(金) 00:05:37|
  2. 人間ライフ
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