パパ読ンデ

光を越え、事象の地平面で逢いましょう

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流転

このところの涼しくなってきた空気を、

夏の巻き返しを諦めきれない太陽が踏ん張っている

気配を感じながら、日課の散歩をしていました。

田んぼに沿った道を歩いているうちに暑さに耐え切れず、

ジャージの上着を脱いで袖を腰に巻き付けていると、

視界の隅で、道路の上にカマキリが佇んでいました。

道路で待ち伏せ型のハンターが獲物を待っていたら

すぐに車に轢かれてしまうと思い、

草叢に避難させるつもりで近寄ると、

そのオオカマキリは腹の中身を道路にぶちまけてあり、

既に轢かれてしまった後のようでした。

そこには成熟したオレンジ色の卵塊が、

柔らかな卵嚢に包まれること無く

黒いアスファルトに裸のまま飛び散っていました。

轢かれていたのは腹だけだったので、

上半身は普段と変わらず祈るようにカマをもたげています。

しかし、複眼が夜でもないのに瑠璃色に変色していて、

やはり正常な状態ではないことを物語っていました。

このまま道路に置かれていては

オオカマキリの煎餅になってしまい、

いくら死んでいるとは言えそれでは余りに無残なので、

私はやはり草叢にそれを放り込もうと長い胸を掴みました。

すると、瞬時にカマが背後に廻り、私の指を振り払ったのです。

オオカマキリはまだ生きていました。

漏れ出た体液のせいでアスファルトに腹が圧着され、

身動きが取れないだけのようでした。

首を切ってもまだ体は動き続けるほど

カマキリの生命力が旺盛なのは子供の頃の実験から

知っている筈なのですが、

予想外に力強い腕に私は驚きました。

幾多の危機を乗り越え辛うじて生きながらえた筈の

オオカマキリの成虫の一生を思うと、

腹は潰れ、自らの遺伝子を受け継ぐ卵がダメになったのに、

それでも敵を追い払って命を続けようとしている姿が、

まるで道化のようで哀れを誘います。

あと一歩、卵さえどこかに産み付ければ、

使命を果たして一生を閉じる事ができたのに、

自動車に踏みにじられて、

子供も自分もこの世を去らなければならないと

彼女は認識できているのでしょうか。

その時、背後から車の走行音がして、

振り向くと白い軽トラが迫ってきていました。

私は咄嗟に路肩へ飛び退き、

軽トラがオオカマキリの上を通過するのを見守りながら、

何とかタイヤから逸れていることを願いました。

しかし静寂が戻ってみると、

軽トラのタイヤはど真ん中にオオカマキリを捉えたようで、

彼女は全身が平べったく熨されていました。

潰れて明後日の方角に向けた頭は

流石にもう動き出す気配は無く、

孵化することのなかった子供達と共に

その命を終えたようでした。

私はその姿を直視し続けることが出来ず、

目を背けて散歩を再開するため歩き出しました。

日差しは頬を焼き、背中には汗がTシャツを濡らしているのに、

私は不意に夏の終焉を悟りました。

季節は巡り、来年も必ず夏はやってきます。

しかし今年の夏はこの一回だけ、

何千年何億年経っても、もう一度味わうことはできません。

猛暑が続いたこの生命の季節に、

私は浮かれて昆虫観察に勤しみました。

カマキリにも沢山出会いました。

皆同じような顔をしているけれども、

当然一匹として同じ個体はいません。

私はそれらのカマキリを思い浮かべ、

彼等の生き様を想い、

去ってゆく季節に後ろ髪を引かれる思いで歩き続けました。


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  1. 2010/09/28(火) 23:09:49|
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