パパ読ンデ

光を越え、事象の地平面で逢いましょう

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思慕の念

数ある私の散歩ルートのうち、

特に気に入っている畑の間を通る道を歩いていると、

お婆さんが脇のあぜ道から目の前に合流してきました。

お婆さんと挨拶を交わすとその後ろに、

三毛猫がついてきているのが目に留まり、

猫の散歩とは珍しいのでその事に触れました。

お婆さんと私は並んで歩きながら

猫やお天気、農作物の世間話をして、

T字路で左右に分かれるまで五分ほど一緒に歩きました。

すれ違う時に知らない人と挨拶をすることはよくありますが、

お喋りを散歩の合間にするのは初めてでした。

私はお年を召した女性と波長が合うのか、

仕事で伺ったお宅のお婆さんと話が弾むことが稀にあり、

お茶などご馳走してくれる方もいます。

中でも、三年前の夏に伺ったお宅のお婆さんは、

お茶どころか料理やお菓子まで、

テーブルが埋まるほど歓待してくれたので

とても有難く印象に残っています。

昼ごはんを食べたばかりの私は、

残したら申し訳ないと思いながら苦しくなるまで

出されたものを腹に詰め込んだのですが、

結局お婆さんの「好きな物だけ食べてくださいね」

という言葉に甘えて半分ほど頂いてギブアップしました。

その間、お婆さんの家族の話を聴いていたのですが、

今は皆出掛けていて留守にしているけど

息子の家族と同居しているようで、

息子もお嫁さんも日々自分のお世話をしてくれて、

いつも本当に感謝しているとの言葉に、

自分もこのように在りたいものだなと思いました。

でも二ヶ月前に旦那さんを亡くしたばかりで、

今は何も手につかない、これからどう生きていけばいいのか

判らないともこぼしていました。

デイサービスから家に戻ってきた旦那さんはトイレへ歩きながら

「自分の足でトイレに行けるなんて、俺は幸せだな」

とつぶやいて、トイレへ入ったまま息を引き取ったようでした。

お婆さんは、主人のお陰で今まで本当に幸せだった、

世間の人と違って、結婚してから辛いなんて思ったことが無い、

だから主人にはとても感謝しているけど、

自分はもう主人に何もお返しすることができない、

そう語るお婆さんの姿は存在感が無く、

背景が透けて見えるほど儚げでした。

連れ合いを亡くした90歳の老女の気持ちを

私が完璧に共感することは出来ませんでしたが、

夏の道路に立ち上る陽炎のように

どうかすると消え入ってしまいそうなお婆さんを、

鼓舞できるような言葉を私は必死で考えました。

でも結局、人生の大先輩に対して若輩者の私が大層な事も言えず、

最期に幸せを感じて亡くなられるなんて、

旦那さんは人生に満足していたのでしょう、

奥さんは主人のお陰とおっしゃいますが、

旦那さんもきっと奥さんのお陰で幸せだったと

お互いに思っているに違いありませんよ、

だからもう充分お返しはできている筈ですよ、

と在り来たりの慰めを述べました。

それでもお婆さんが納得してくれたので、

私も少しご馳走のご恩返しができたかなと安堵しました。

いつまでも夫に対する愛情に溢れたお婆さんの気持ちに触れ、

腹は苦しかったですが、とても爽やかな夏の昼下がりでした。

夫婦の思い遣りがとても強い絆を育むことを、

あのお婆さんと向かい合った光景を思い出す度に再確認しています。

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  1. 2010/04/29(木) 23:31:22|
  2. 人間ライフ
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